昨今、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の機運がコロナ禍の影響もあってますます高まっています。GDPRなどプライバシー保護強化の流れもあり、データを取り巻く環境は大きく変化しています。このようなビジネス環境の変化の中、日本航空様はこれまで以上に積極的にデータ活用に取り組まれています。そこで今回は、同社のデータ活用の最前線で活躍されるお二人に、その方針や今後に向けた課題などについてお話を伺いました。
※ 今回のインタビューは、日本航空株式会社様のご協力の下、緊急事態宣言の期間外に、新型コロナウイルス感染予防対策ガイドラインに準拠して実施いたしました。マスク不着用の写真は声を出さず飛沫や呼気等に十分注意して撮影しております。
日本航空株式会社
Web販売部 1to1マーケティンググループ
アシスタントマネージャー 小川 拓也 様
主任 中野 由貴 様
DXの推進やプライバシー保護の強化の流れにコロナ禍も加わってビジネス環境が大きく変化する中、日本航空様はこれまで以上に積極的にデータ活用に取り組まれています。まずは、その方針や考え方についてお聞かせください。
小川様:まず大前提として、データというものが企業の資産であると言われるようになってから数年経つと思います。もちろん我々もデータは資産だと思っているのですが、正しく理解して正しく使うことができなければ資産とは言えないということも合わせて考える必要があると思っています。
使いにくいデータばかり集めていたり、整理が不十分なデータフォーマットに入れていたりすると、データと言ってもただのゴミデータ(ノイズ)でしかありません。使うことすらままならないといった事例も聞きますし、そのような課題に直面されている企業様もなかにはいらっしゃるかもしれません。我々としてもグループ会社の中にはそういう状態のデータがいくつかありました。それを苦労して整理したことで、資産として活用できる状態にしたという経験もしています。
日本航空株式会社 小川 拓也 様
昨今DXというキーワードや、コロナ禍でどうするべきかということがいろいろと話題になっていますが、日本航空様ではどのようにお考えでしょうか?
小川様:まずDXについてお話しすると、考え方としては、世の中のお客さまがどんどんデジタル化していて、今までなかなか引き出せなかった情報をお客さまご自身で引き出せるようになっています。古い話で言えば、どこかに行くとき、紙の地図を見て行き先を確認していましたが、今はスマホ一つで地図が見られるわけです。インターネット技術によって、いろいろなものが変わってきています。IoT(Internet of Things/モノのインターネット)なども再注目されるようになっています。今までインターネットと繋がっていなかったものが、インターネットと繋がって利便性が高くなっています。
一方で、企業としては、お客さまがどんどんデジタル化していくことに対して、自社のビジネスをどのように合わせていくのか、どのように考え方を変えていくのか、という思考を持たなくてはなりません。それを突き詰めていったものがDXだと私は考えています。
デジタル化していくと、もう一つの良い点として、データがトラッキングしやすくなり、定量化しやすくなるという側面があります。デジタルの力を借りてあらゆるものを定量化してデータ化し、それを企業の資産として活用していくことができます。その流れを突き詰めていくことで、アフターコロナで環境が変わっていく中でも、企業として生き残っていけるのではないかと思います。
それでは、DXの潮流やコロナ禍の影響を受けて新たにDXに取り組んでいるというよりは、これまでのデータ活用の延長線上にDXがあるというお考えでしょうか?
小川様:そうですね。もちろん意識してDX化させるということも部分的にはあると思いますが、大きな考え方としては、やはりお客さまに合わせていくということが、DX化につながると考えています。
コロナ禍という観点で言うと、ご存知のとおり旅行業界は、お客さまがご出張やご旅行に行けなくなり、非常に大きい影響を受けています。そうなると、やはりサイトに来訪するお客さまも減りますし、ECサイトの売上も減るなど、マイナスな数字の動きというのは残念ながら多く出ていました。ただ、それに対する打ち手を考えるためにも、データときちんと向き合い、キャンセル数をはじめ、数字として反映されるお客さまの動向等を正しく理解することが非常に大切だと改めて感じました。
一方で、昨年はGoToトラベルの機会に、JALとしても初めて航空券をタイムセールで販売して、早割運賃の「先得」というサービスをこれまで以上にお得にご利用いただくなどの施策を実施しました。そうすると、情報を知ったお客さまがJALのサイトに来訪され、ご購入いただけるというようなプラスの数字の変化も見て取れました。
つまり、マイナスにしてもプラスにしても、事業に何が起こっているのかということを理解するためには、やはりデータを正しく理解するということが、これからの世の中、ビジネスの基礎になっていくと思うのです。その上で、データとどう付き合い、どのように資産として生かしていくのか、また、最終的に事業としてどのような打ち出し方をするのか、というステップを踏んでいくことが非常に大切だと思います。
2020年10月、Google アナリティクス 4 プロパティ(GA4)がリリースされ、日本航空様はいち早く導入されました。その理由や目的についてお聞かせください。
中野様:もともと、WebのデータはGoogle アナリティクスで、アプリのデータはFirebase(Google アナリティクス for Firebase)など別のツールで見ていたので、Webとアプリをそれぞれ単体で評価することしかできていませんでした。その点を課題に感じていたので、GA4ならWebとアプリの数字を同じツールを用いて計測することができるということに大きなメリットを感じて導入を決めました。
ユニバーサルアナリティクス(従来のGoogle アナリティクス)とは見える数字も変わってくるので、最初のうちは社内へ数字の定義を周知するなど、ひと手間かかる面もあると思います。それでも、やはりWebとアプリを一緒のメッシュで見ていくことは今後の時代の流れでもあると思いますので、いち早く取り組んで、今データの精査を行っているところです。
日本航空株式会社 中野 由貴 様
GA4について、とくに期待されていることはありますか?
中野様:一つは先ほどもお伝えしたとおり、Webとアプリの数字をそれぞれ一緒に可視化して、これまで単体でしか評価できなかったものを一緒に評価していけるということです。
もう一つは広告との連携です。こちらもユニバーサルアナリティクスではできなかったターゲティング方法も拡充されるとのことで、これまで以上に活用していきたいなと思っています。
具体的には、これまでは何ヶ月かサイトに訪問していないお客さまは、広告連携をしてもターゲティングの対象になりませんでした。GA4では、しばらく来訪されていないお客さまでもターゲティングできるようなので、今後はそのようなお客さま向けのリテンション施策などもできるのではないかなと期待しています。
広告連携に関しては、日本航空様はこれまでもGoogle Cloud(Google Cloud Platform/GCP)を活用してアトリビューション分析に取り組まれています。その理由や目的をお聞かせください。
中野様:2017年にGoogle アナリティクスを導入するまで利用していたツールでは、最後に接触した広告しか評価できず、そこに至るまでにアシストした広告の評価ができないことに課題を感じていました。そこでイー・エージェンシーさんにご相談したところ、接触した広告すべてに対して評価を割り振るアトリビューション分析の手法をご提案いただき、Google Cloudを用いて構築していただきました。
接触した広告に対して単純に均等に評価を配分しているのですが、アトリビューション分析によって、これまで評価できていなかった需要喚起など初期に接触するようなメニューについても評価できるようになり、非常にメリットを感じています。
今年度はさらにブラッシュアップして、訴求した内容に沿ったものをご購入いただいた場合のみ評価したり、会員の属性データなどを掛け合わせて、ターゲットにしたいお客さまをより高く評価できるように傾斜配分を掛けたりということも始めています。
広告連携に取り組む際、広告運用を担当する代理店様とのコミュニケーションに課題を感じている企業様も少なからずいらっしゃるようです。日本航空様は何か心掛けていらっしゃることはありますか?
中野様:心掛けている点は二つあります。一つ目は、何事も拒否せずにまずやってみるということです。代理店様からご提案をいただくことも多いのですが、やってみないと成果が分からないものも多くあります。なので、我々のビジネスに貢献しそうだと思える施策については積極的にトライするようにしています。失敗しても知見として次に生かせばいいと考えて、まずは挑戦するよう意識しています。
二つ目としては、代理店様と、お互いにパートナーとして対等な立場でディスカッションすることです。そうすることにより、より良い広告施策が生まれてくると感じています。
代理店様とのコミュニケーションで、必要な情報の開示・共有はスムーズでしょうか?
中野様:代理店様に取り扱っていただいているメニューに関しては、広告からの売上や評価についてもすべて開示するようにしています。我々からの開示を待たずとも、代理店様自身がすぐにリアルタイムで数字を検索できるようになっています。常に連携していないデータもありますが、施策に関することであれば、Google アナリティクスのデータを抽出してお渡しすることもあります。
代理店様とのコミュニケーションは良好なようにお見受けしますが、どのようにお感じでしょうか?
中野様:代理店様とは非常に良好な関係を築けているように感じています。我々は事業サイドとして自分たちのビジネスに対して責任を持ち、広告運用においても、ビジネスに貢献するために追わなければならない数字については、責任を持ってちゃんと見るようにしています。
代理店様には広告のプロとして、我々のターゲットや目的などをきちんとお伝えした上で、いちばん最適なメニューを考え出していただけるように、そこの運用面については信頼してお願いするようにしています。
代理店様との良好なコミュニケーションには、目的や成果など情報の開示・共有が重要ということでしょうか?
中野様:代理店様は広告の数字しか見られないので、その数字について良いか悪いかの判断はできますが、それが実際にきちんとビジネスに結びついているかどうかということまでは見えないと思うのです。なので、そういう情報をきちんと開示していくことで、お互いがパートナーとしてビジネスをより良いものにしていっていると感じられ、より良いコミュニケーションが生まれていくのではないかと思っています。
日本航空様のデータ活用全体を見た場合に、今後に向けて課題に感じていらっしゃることはありますか?
中野様:課題は二つあると思っています。一つ目は、広告としてはいろいろとチャレンジングなことができているのですが、それらとサイト内のレコメンドやメールなど、横軸で展開している施策との連携が取れていないことです。
昨年度、お客さまのデータを一元管理するようなカスタマーデータプラットフォーム(CDP)を構築して、データを格納していっています。しかし、そのデータを使って、広告、メール、レコメンドなど横軸の施策で、お客さまに対して1to1で全部同じように訴求できているかというと、今はまだできていません。今後GA4を活用していくと、CDPにはアプリのデータなど、さらにリッチなデータが入ってきますので、それらも活用しながら、もっと横軸の施策の連携をやっていきたいと考えています。
二つ目としては、社内へのGoogle アナリティクスの普及です。他部署など、日頃からよく使うメンバー以外への普及がなかなか難しいなと感じています。
こまめに勉強会などを実施しているのですが、データを専門的に見ている部署ばかりではないので、自分たちでWebのログデータを分析して何か施策に生かすというのが、まだまだピンとこないような担当者もいたりします。GA4の運用が本格化したタイミングなどで、改めて普及活動をやっていかなければならないと感じています。
勉強会については、どのような内容がいいのか非常に悩んでいるところです。イー・エージェンシーさんのトレーニング動画なども、勉強会の対象者に合ったものを抜き出して使わせていただけたらと思っています。
日本航空様とイー・エージェンシーのパートナーシップもおかげさまで7年目に入らせていただくことになりました。ここまでのイー・エージェンシーの対応はいかがだったでしょうか?
小川様:長いお付き合いになったなと感じています。実は私自身もこのWeb販売部に着任してもうすぐ丸7年になります。私が着任して半年くらい経った頃でしょうか、初めてイー・エージェンシーさんとお話ししたのは。Google アナリティクスの導入検討の本当に初期の段階から一緒にお仕事をさせていただいています。その頃から非常に感じていたのが、本当に高い専門性のある知識をお持ちだなということです。
我々は航空会社ですから、当時は本当にGoogle アナリティクスの知識はありませんでした。ECサイトの数字がどうかとか、どういう数字を見るべきかとか、そういうことについてはノウハウが足りていない部分も多くありました。EC事業が始まり、部内でどんどん知見を蓄えてはいたものの、事業会社としてはジョブローテーションもありますので、知見を蓄えては失っていくということが課題でした。
そのようななか、イー・エージェンシーさんという本当にしっかりとお任せできるパートナーにうまく巡り会えたと感じています。当初はGoogle アナリティクスの導入や活用のサポートから始まりましたが、その後はGoogle マーケティング プラットフォーム(GMP)などによるデータ活用全般に及んでいます。
たとえば、データを資産として使うためにはどのようにGoogle Cloudを活用すればよいか、どのようにデータポータルなどBIツールを使えばよいか、どのように他の広告ツールと連携すればよいかなどについてご相談させていただきました。Google アナリティクスを中心とするGMPなどのツール群とどのように向き合うかということについて、いろいろと細かい部分の話をさせていただくことができ、非常に助かっています。
うれしいお言葉をいただき、ありがとうございます! 今後も引き続きご期待に沿えるように尽力していきたいと考えております。
日本航空様と長くお付き合いさせていただく中で、皆様いつも清々しく対応され、社内外を問わず非常に良好なコミュニケーションを取っていらっしゃるように感じております。最近はテレワークも多く、苦労されることもあろうかと思われますが、チームワーク良く業務に取り組む秘訣はあるでしょうか?
中野様:弊社は、新型コロナウイルス感染症の影響を受ける前からテレワーク制度は充実していましたが、それでも今までとは対面する率が格段に下がり、顔の見えないコミュニケーションが主になったことで、最初はいろいろな面で戸惑いました。
ただし、日頃から築いてきた関係性があったのはもちろんですが、テレワークでもこまめにチャットでやり取りをして、困っていることや相談事項などがあればなるべく密に連絡を取り合うようにすることで徐々に慣れていきました。また、オンラインの会議でもきちんと顔を出して、顔の見えるコミュニケーションを心掛けています。相手の表情から読み取れることも多くあり、オンラインでも良いコミュニケーションが取れているのではないかなと思います。
今後イー・エージェンシーに期待されることをお聞かせください。
小川様:GA4を中心としたGMPなどによるデータ活用全般の知見とサポートを、今後も引き続きお願いしたいと考えています。
GA4については、おそらく2021年度の途中から本格的に使っていくことになると思います。そこで、我々がGMPとあわせて正しく使っていけるのか、正しい考え方で最大限のパフォーマンスを引き出せるのか、問われることになります。また一方で、新しいリリースがあったとき、必要な情報をキャッチして、いち早くどのように対応すべきか、問われることになるでしょう。
我々事業者側としても当然レベルアップしていかなければならないところですが、やはりイー・エージェンシーさんから正確な情報を素早くお知らせいただいて、それが我々にとって優先度が高いものなのか、どのように対応すればよいのか、きちんと議論できる土台をぜひ引き続き作っていっていただきたいなと思っています。
情報を正確に素早く伝えるというのは、口で言うのは簡単ですが、なかなか難しいことだと思うのです。どうしても人から人に移る間にニュアンスが少しずれたりすることはどこにでもある話だと思います。その点ではイー・エージェンシーさんを本当に信頼していますので、今後もお願いいたします。
GA4については、先程中野からもお話ししましたが、多くの期待を寄せています。これまで見てこられなかったWebとアプリとの関係性や、広告施策への活用の仕方など、いろいろと思い描いているところです。しかしながら、きちんと設計ができていなかったり、正しい理解ができていなかったりすると、間違った使い方をしてしまったり、間違った数字を見てしまったりすることがデジタルツールの難しいところだと思います。その構築のところを二人三脚でしっかりと支えていただきながら、GA4の実運用ができるようにしていければと思っています。
ゆくゆくはGMP周りに留まらず、いろいろとチャレンジングな仕事をご一緒させていただき、イー・エージェンシーさんと一緒に成長していけたらと思います。我々としては2021年、2022年と、どんどん新しいことに取り組んでいきたいと思っていますので、今後とも是非よろしくお願いします。
貴重なご意見をいただき、誠にありがとうございました。今後も引き続きデータ活用の推進パートナーとして伴走させていただき、課題の解決に向けてお役に立てたらと考えております。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
右より、日本航空株式会社 小川 拓也 様・中野 由貴 様
株式会社イー・エージェンシー 富満 祐子・井上 陽介
今回は日本航空様に、同社が目指すデータ活用やDX、GA4・Google Cloudと広告連携、運用代理店様との関係構築のポイント、CDPとデータ統合などについてお話を伺いました。
イー・エージェンシーは、Google アナリティクス 360の導入・運用およびデータ活用において、APACでもトップクラスの実績を持つGoogle公認リセラーです。これまで培ってきた豊富な知見をもとに、Google アナリティクス 4 プロパティ(GA4)の導入・運用や、Google Cloud(Google Cloud Platform/GCP)によるデータ統合、広告連携、アトリビューション分析、広告やメールなど顧客へのアプローチ施策の効果改善など、データ活用全般を支援いたします。